意地悪で冷たい欲望しか感じられなくとも自ら囚われる快楽の練習 (ページ 2)

「…梨香。」

「えっ?!あ…。」

いつの間にか目の前に立っていた先生。

苗字ではなく名前で呼ばれた事に、私の体がビクッと跳ねた。

「何か考え事?…今日はやめとく?」

ジッと見つめる目。

マスクはもうしていないのに、何だか気持ちのつかめない表情をしている。

それに耐える事が出来なかった私は、首を振りながら目線を足元に下げた。

「い、いえっ!大丈夫ですので…お願いします。」

「…そう?ならいいけど。…おいで。」

そのまま、俯く私の横を通り過ぎ、いつもの場所へと向かう先生。

「…はい。」

ふーっとゆっくり息を吐き出した私は、急いでその後を追った。

「ほら。いつもみたいに、始めて。」

「…は、はい。」

―“練習”

その言葉は、私の仕事の技術を磨く事なんかじゃない。

診療室の一番奥。

いつもこの場所で、先生は私だけに特別な練習をしてくれる。

患者用の椅子に腰掛けながら、その視線が私の行動を促した。

「し、失礼します。」

もう何度も経験したのに。

一向に慣れないのはどうしてだろう。

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