あじわったことのない快感…優しく彼が教えてくれた開放の世界 (ページ 2)
「つまり、今まで付き合った彼氏みんなに、つまらない女だって、言われちゃった、と――」
「はい……。特に、その……セ、セックスが」
SNS上で初めてメッセージをやり取りしてから、二か月後。
杏子は、彼の店を訪ねた。
静かな住宅地の中にあるその店は、目立つ看板もなく、教えてもらわなければ見過ごしてしまいそうなほど小ぢんまりとしていた。
木目を活かした店内は、どこか懐かしく、居心地の良い空気に満たされている。
カウンターに立つ男性は、SNSで見た写真の男性に間違いなかった。
当初、彼は直接会うことにむしろ否定的だった。
『無理に会わなくても、もっと楽な方法はいろいろあるよ。匿名でエロチャットするだけでも、けっこうスリルあるし、いつもと違う自分になりきる楽しさは充分味わえる』
焦らないで、自分を安売りしないで、と、気遣ってくれる彼だからこそ、会いたい、と思った。
直接会って、話がしたい。彼の声を聴いて、彼の手に触れて、その体温を感じてみたい。
そうして今日、ようやく彼のもとへ来ることができたのだった。
店のソファーに彼と並んで座ると、初対面という気がしなくなる。ずっと以前から、こうして何度もふたりで話をしてきたように思えるのだ。
「彼氏とのエッチは、楽しかった?」
「楽しいっていうか……、恋人どうしなんだから、するのが当然って、思ってました。でも――」
「でも?」
「わ、わたし……、よく、わからなくて……。その、感じる、とか、気持ちいい、とか……」
膝の上に置いた手が、思わずふるえた。
今までつきあった男性は、何人かいる。体の関係を持ったこともある。
だが、そのたびに、
「つまんない女だな、お前」
と言われてしまった。
セックスしても、反応が薄い。ベッドにじっと横たわったまま、ただ相手が動くのを待っているだけだと。
じゃあ積極的になればいいのかと、アダルトビデオなどを参考に、喘いだり身をよじったりしてみれば、今度はわざとらしい、と言われた。
「たしかに、セックスって、怖いよね」
紘一は優しく微笑み、言った。
「怖いっていうより、緊張する、かな。裸になって、自分の体全部、相手に預けちゃうんだから。セックスに慣れてないなら、なおさらだよ」
その言葉に、杏子は思わずうなずいてしまった。
「本当なら、より慣れてるほうが、慣れてない相手の緊張を解きほぐして、リラックスさせてやらなきゃいけないんだけどね。……こんなふうに」
手を出して、と、彼は自分の手を差し出した。
杏子がおずおずとその上に手を乗せると、そっと包み込むように握ってくる。
指と指を絡ませ、またほどく。手のひらをぴったりと合わせる。手のひらのくぼみを彼の指先でなぞられると、思わず手がぴくっと反応した。
「くすぐったい?」
「は、はい。少し……」
「それでいいんだよ」
彼は微笑んだ。
「くすぐったいってことは、ちゃんと感じてるってことだから」
「え……」
「大丈夫。貴女は不感症なんかじゃないよ」
そっと肩を抱き寄せられる。
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