俺たちは理想のセックスフレンド。今夜も欲望に任せて貪りあう。なのに今夜は違った。 (ページ 4)

 ぐったりと横たわる彼女を、背後から抱きしめる。

 お互いに汗ばんだ肌が、今では着慣れた服のように馴染む。

 この時間が、俺にとっては、至福の時だった。

 1時間も経つと、由良も正気を取り戻し、シャワーを浴びて、身なりを整える。

 その後に、俺もそうする。

 情事の最中と、その前後では、由良は別人のようだ。

 仕事帰りのパンツスーツ姿はとても清楚なのに、ベッドの上ではあの乱れっぷり。

 そのギャップも、俺は気に入っていた。

 なのに…。

「充輝、話があるの」

「何だ」

「もう、終わりにしたい」

 一瞬、何のことなのかわからなかった。

 不意を突かれて、俺は黙る。

「好きな人ができたの。だから、充輝と会うのは今日限りよ」

「ちょっと待ってくれよ。そんな勝手な話があるかよ」

「その人に、こんな関係の人が…充輝がいることは恥ずかしいし、バレたら軽蔑される」

 由良の言葉を聞いた次の瞬間、俺の口を突いて出た言葉に、自分自身驚いた。

「じゃあ、俺と付きあってくれよ」

 ところが彼女は、それを鼻で笑った。

 このままでは、由良を取られてしまう…。

 この時初めて、俺は自分の本心に気付いた。

 この人を、取られたくない。失いたくない。

 俺は、由良を愛してしまっている。

 体どころか、心まで、その魅力の虜になってしまっている。

 葛藤している間はない。

 俺にできることは、ひとつしかない。

「来いよ!」

 俺は、由良をベッドまで引っ張っていって、押し倒した。

 もう1度、快感の波に引き込んで、思い留まらせたい。

 由良は、不思議そうな瞳で、俺を見上げている。

 …俺にはできない。

 愛する人を無理矢理犯すような真似など、俺にはできなかった。

 俺は、体を起こした。

「…すまない」

 由良は起き上がると、スーツの皺を気にするように、ジャケットの裾と袖を引っ張った。

「…もう行かなきゃ」

 背を向けかけた由良が、ふと思い出したように、俺を振り返って言った。

「今日まで、ありがとう」

「…さっさと行けよ」

 ぱたん…と閉まったドアの音で、何もかも終わってしまったと思った。

 由良が去った部屋の中、俺は初めて恋に涙するということを知ったのだった。

-FIN-

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