秘密のパーティで出会った謎の男性に、初めての快感を教わる私。指先だけでとろけそう (ページ 5)

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 その後、ひとりで夜の街へ出ることは一度もなかった。

 無論、伶と会うこともなかった。

 何事もなかったかのように、静かに日々を重ね、結婚の準備を整える。

 あの夜のことは、自分の胸だけに秘めた冒険の記憶。一生、誰にも言わない、大切な思い出だ。この先も、折に触れ思い出しては、自分の人生にも極彩色に染まった夜があったのだと、感慨にふけるだろう。

 これからずっと、惰性にも似た安定の中で生きていく自分を、慰めることができる。

 そうして、結婚式の日を迎えた。

 花嫁衣裳に身を包み、教会のヴァージンロードを歩く。夫の隣に立ち、誓いの言葉を述べ、指輪を交換する。

 式は手順通り、淡々と進んだ。

「おめでとう、お幸せに」

「綺麗よ、とっても!」

 参列者からの祝福の言葉さえ、平凡だった。

 ――そうよ、これが私の生き方。静かに、穏やかに、悩みや苦しみなどからは、できるだけ縁遠く……。

 そう思った時。

 新郎側の親族席にいる、ひとりの青年と目があった。

 礼服に身を包み、静かにほほ笑んで祝福の拍手を送っている、その青年。

 ――伶……!

 あの黒い瞳を、見る者を貫くような視線を、忘れるはずはない。

 ――どうして……、どうして、あなたが……!

 驚きのあまり、呼吸も詰まりそうになる。

 彼は穏やかに微笑しているだけだ。けれどその瞳には、あの夜と同じ、燃えるような欲望が揺らめいていた。

 その眼が、言っている。見つけたよ、と。

 会いたかったよ。あの夜の続きをしよう、と。

 ――ああ……。

 桜は思わず、夫の腕にしがみついた。そうでもしなければ、その場にへたり込んでしまいそうだった。

 混乱した脳裏には、まともな言葉も浮かんでこない。

 わかっていることは、ただひとつ。

 今まで思い描いていたような、穏やかで平凡な結婚生活など、もはやありえない。

 あの夜のような、めくるめく興奮と情動の日々が、始まるのだ。

-FIN-

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