私の理性をかき乱す生意気で可愛くないドSな後輩 (ページ 2)
思えば今日は酷い一日だ。
就業時間を目前に、パワハラ全開の部長が私を「明日が期限の資料が提出されていない」と呼びとめた。
「困るんだよなぁ真純ちゃん。納期くらいは把握してよ」
「あの、その資料は来週の会議に使うので来週まででいいと部長が……」
「言ってないよそんなの! そうだとしても早めに作って上司に提出するのが常識じゃないか!」
部長は他の社員がいるところで私をよく怒鳴りつける。
フロア中に気まずい雰囲気が流れ、何人かは私を気の毒そうに眺めた。
泣きたくなんかない。
それなのに、惨めさに涙がこみ上げる……その時だ。
「部長、これでいいですか?」
部長から私を庇うように、大きな背中が立ちふさがる。
「な、なんだ佐久間! なんだコレは!」
顔を上げると……背中で見えないが、どうやら佐久間君は紙の束を部長に渡したらしい。
「部長がおっしゃる資料です。もっとも、この資料を使う会議は来週なので、明日が期限の意味はわかりませんが。でもよかったですね部長。真純先輩が常識的な人で。確かに提出はまだだったようですが、ほとんど完成しているようだったので部長が無駄な説教を先輩にしている間に俺が手を加えて完成させちゃいました」
てへ、っと。笑うとわざとらしく時計を指さす。
「そういうわけで五時になったので定時で上がりまーす! お疲れ様でしたー!」
フロア中に声を響かせると、佐久間君は私の手を引いた。
「えっ! あっ! ちょっと!」
その力は思ったより強く、歩幅も合わせてくれない。ぐいぐいと引っ張られ、資料室に連れてこられたときには息が切れていた。
「こんなもんで息があるとか、歳ですか先輩」
薄暗い資料室の電気をつける。
悔しいけれど、佐久間は汗の一つもかいていない。
「はぁ、はぁ……うるさいなぁ! 佐久間君ってほんっとに可愛くない! そんなんじゃ次に入ってきた子に嫌われるわよ!」
「は?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 私この会社辞めるの」
「……なんだよそれ」
ひょうひょうとした雰囲気ががらりとかわる。
いつもへらへらと笑っている癖に、急に視線が鋭くなった。
「べ、別にあなたに関係ないでしょ?」
「そりゃないけれど」
あっさり引かれると、さすがに傷つく。
佐久間君は入社した時から生意気な後輩で、何かにつけて私につっかかってきた。
「色気がない」とか「可愛くない」とか、さんざん言われたけれど、憎まれ口を叩きあうくらいには仲良くなっていた……つもりだったのは、私だけみたいだ。
胸の奥がずきずきする。
どうしよう。
部長にいじめられているときより、痛いかも。
「や、辞めるのは一カ月後だから、引き継ぎはおいおい済ませるわよ。口うるさい先輩がいなくなってよかったわね。……さっきはありがとう。じゃあね」
資料室を出ようとすると、扉を背後から閉められた。
「ちょっと、邪魔……」
抗議したところで、両手首を頭上で掴まれる。
「きゃっ!」
「ホントに感謝しているなら相手の顔くらい見たらどうスかね。……てか、言葉とかいらないから、ご褒美くれよ」
佐久間君は私の顎をとると、無理やりに視線を合わせる。
「痛い、力強いって! 離してよ!」
「嫌ですよ。俺、先輩の泣きそうな顔好きですけれど、俺以外の男になんて見せないでください」
次の瞬間には唇が重なっていた。
あまりのできごとに固まると、容赦なく唇を吸われる。
抵抗しようと歯を立てようとしても、舌をきつく吸われてかなわない。
「ふっ……あっ……く!」
荒々しく貪られ、息ができない。
(かくなる上は……!)
崩れそうになる膝を踏ん張り、蹴り上げようとしたが、あっさり避けられた。佐久間君は私を横抱きにすると、使われていない机に押し倒す。
「痛っ……! 離してよ!」
私の抗議なんて聞こえていないふりをして、首筋に噛みつき、きつく吸い上げてくる。ちくっと痛い。そしてブラウスのボタンを引き千切るように外し、胸をくつろげる。
「真純先輩。抵抗したければしていいんですよ? それとも、都合よく誰かが助けてくれるのを待つ? さっきの俺みたいに、優しい誰かが来てくれるといいなぁ?」
ブラジャーをぐいとたくし上げると胸を大きな手でふにふにと揉まれた。
「やめて、やめてってばぁ!」
我慢していた涙がこぼれた時。佐久間君は嬉しそうに微笑む。
「真純先輩の泣き顔ってすげーそそられる」
太ももにねっとりと舌を這わす佐久間の眼は――らんらんと輝く、肉食獣に似ていた。
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