発作的な現実逃避先で出会ったコンシェルジュに快感だけの世界に導かれる (ページ 2)
白いシャツにグレーのジャケット。
砂浜にそぐわない格好だと思う。
わたしもそうだけど。
「海が綺麗で感動しただけです…」
慌てて涙を手で拭う。
今日に限ってスーツのポケットにハンカチは入っていない。
「これをお使いください」
男性が真っ白なハンカチを差し出した。
穏やかな微笑みに警戒心が薄れる。
「ありがとうございます」
「私はあのホテルでコンシェルジュをしております」
高台のホテルを指差してから、男性が名刺をくれた。
わたしも自分の名刺を出す。
こんな状況でも体がビジネスマナーを憶えているのが辛い。
「千星様。素敵なお名前ですね」
「利人さんも素敵なお名前ですよ」
だけど、社交辞令丸出しの会話も、潮風の中だと悪くないのが不思議だ。
「千星様、よろしければ当ホテルをご利用されませんか?」
「いいんですか?まだ、泊まるところを決めてなかったのでありがたいです」
「では、ホテルまでご一緒いたしましょう」
優しいエスコートで、わたしはホテルへと導かれた。
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