私はあなただけの女。でも、あなたは彼女のもの。わかっているのに、この気持ちは止められない。 (ページ 4)

「志穂…そろそろイキそうだ…」

「ちょっと待って、私も、もう…」

「お前がイクまで、俺はいくらでも我慢するから…。だから、気持ちよくなってくれ…」

「イカせて、私をイカせて!」

「いいぞ、もっと言えよ…」

「イク…っ!イッちゃう…っ!」

「出すぞ、いいか…?」

「出して、今、出して…ぇ」

私の中で博人のものが大きく脈動するのと同時に、目の前が真っ白になった。

いつも一緒に絶頂を迎えてきた私たちは、荒い息遣いで、余韻が覚めるのを待つ。

座った体勢で、抱き合ったまま。

それが落ち着くと、私たちはベッドに寝そべって、寄り添い合う。

博人は、25歳の時に結婚している。

でも、奥さんとは早くからセックスレスだったらしい。

10年前に中学生だった娘さんとも会話はなく、その状況は未だに続いているとか。

だから博人は、男慣れしていなかった学生の私を選んで、あれこれと教え込んだ。

お洒落なバーに憧れを持った私を、早熟な娘だと思って誘った、と話してくれたことがある。

そして、私は見事に、彼の体に慣れ切ってしまって、まぎれもない『博人の女』になった。

なのに…。

「志穂、もう会えなくなるよ」

「…え?」

「転勤が決まったんだ。シンガポール支社に」

悪い冗談だと思った。

私をからかっているだけだと思いたかった。

「嘘…でしょ」

「3週間前に、決まった」

3週間前。

私が、忙しさにかまけて、博人の誘いを断るようになった頃だ。

「現地へは、妻を連れて行く」

「…どうして。どうして私じゃなくて、奥さんなの。お嬢さんはどうするの」

「娘は、もうひとり立ちしてるんだから、ひとりでやっていくさ。恋人もいるみたいだし、俺がいなくても何も困らない」

私はどうなるの。

喉元まで出かかった、無意味な言葉を飲み込んだ。

「本当なら、志穂を連れて行きたかった。もしお前が妊娠してくれたら、それで妻とは離婚できたはずなんだ」

どうやら、娘さんを盾にして、奥さんが離婚に応じなかったという話らしい。

博人のことを、責められない。

やり場のないこの気持ちを、どうすればいい。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は言った。

「来週には発つことになる。空港まで、見送りに…来てくれるか」

残酷な言葉だった。

でも、遠くからでもいいから、最後になるかもしれない、博人の姿を目に焼き付けておきたい。

博人たちの出発当日。

待合室の片隅で、私はおとなしくしていた。

一緒に発つ奥さんは、浮き足立っている様子だ。

恋人らしき若い男性と一緒の娘さんは、お母さんに似て、とても綺麗だった。

初めて見る家庭人としての博人は、いい夫、いい父親の顔をしていた。

こんなに恵まれているのに、あなたはなんてわがままで、身勝手で、子供っぽいの。

なじってみても、聞こえはしない。

堪え切れずに立ち上がった私に、博人が目を向けた。

待合室を、後にするべきだ。

彼の色香と毒に冒された体が、言うことを聞かなくなる前に…。

-FIN-

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