再会してしまった彼と過ごす甘い痺れと虚無な痛み (ページ 4)

「く、う……う、あ……ああんっ!」

 悦い。いい、気持ちいい。

 体の中に、自分ではない、誰かがいる。

 彼の体温、鼓動、灼熱の欲望が、この体の真ん中に埋め込まれる。

 突き入れられ、引かれ、また入れられる。ぎりぎりまで引き抜かれ、一気に押し込まれる。

「ああっ! や、あ、あーっ! だ、だめ、ああ、こんな……ま、待って、わたし……っ!」

 美里はうわごとのように、意味のないことばかり口走った。

 もう、自分でもなにを言っているのかわからない。

「と、とける……、とけちゃう、そこ……、ああ、こわれちゃううっ!」

 彼が動くたびに、鮮烈な快感がほとばしる。濡れそぼって過敏な粘膜をこすられ、引きずられて、すべてが溶けてしまいそうだ。

 彼と自分の体の境目すら、わからなくなる。

「ああ、いぃ……いい、もう……っ、もう、いく、いくぅっ!」

 彼の背中に腕を回し、両脚も腰にからめ、全身で彼を抱きしめる。

 悦楽が波のように押し寄せる。何度も、何度も。

 次第に高く大きくうねり、すべての感覚を押し流していく。

「お、お願い、一緒に……一緒に、いってぇ……っ!」

「ああ、一緒に――!」

「あ、あ――あぁーっ!」

 そして二人同時に、最後の頂点にのぼりつめた。

 翌朝。

 まだ薄暗いうちに、徹は足音を忍ばせてアパートを出ていった。

 美里はひとりベッドに横たわったまま、彼を見送ることもしなかった。

 一年前もそうだった。彼は黙ってこの部屋を出ていき、自分も黙って、その後姿に背を向ける。

 ――きっと、これからも。

 なんとなく始まった関係は、彼の出向期間が終わると同時に、なんとなく終わったのだと思っていた。

 けれど、明確な別れがなかったからこそ、不意にまた、始まってしまうのかもしれない。

 我ながら、ずいぶんルーズだと思うし。

 ――淋しい、のかな。私。

 恋とか愛とか、そんなきれいな言葉で飾ることもできずに、ただ体だけで慰めあうこの関係。

 このまま、二度と会わないのか。それともまた、偶然の再会で、彼とずるずるとつながりあうのか。

 どちらにしてもまた、心に小さな傷が残るのだろう。

 雨粒のような、小さな小さな、けれどとても冷たくて、生涯癒えることのない傷が。

 それでも、たぶん。

「そんなものでも、残ってないより、きっとまし」

 自嘲するように、つぶやいてみた。

-FIN-

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