「可愛いだけで終わらせないで」思い出を塗り替えるオトナの再会
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「可愛いだけで終わらせないで」思い出を塗り替えるオトナの再会 (ページ 1)
雨上がりの夕焼けだった。
息苦しいのは、少しだけ蒸れた空気を吸い込んだせい。
「あ…」
目が合った瞬間に出た声は、どちらも小さかった。
彼は、隣の家に住む七歳年上のお兄さん。
昔はよく彼のあとをついて遊びに行ったり、構ってもらったりしていた。
けれど、彼は就職を機にこの街を出て行った。
「久しぶりだね、菜々子ちゃん」
駅の改札を出てすぐ、屋根のあるところで雨宿りをしていた私の方へ、まさに改札から出てきたばかりの彼がゆっくりと歩み寄った。
「お久しぶりです、巧さん」
彼のスーツ姿を見たのは初めてかもしれない。
私はちょうどこの春に就職したばかりで、最近はたくさんのスーツ姿の男性を見るようになったけれど、こんなにかっこいいと思った人はいなかった。
「どうしたんですか?こっちに帰ってくるなんてめずらしい」
「お正月ですら、あんまり帰ってきたことないからな」
そう言うと微かに笑って、「この春からこっちに戻ってきたんだ」と教えてくれた。
「えっ、じゃあまたあの家に?」
「いや、さすがにもうこの歳だから実家暮らしはね。駅近のマンション借りてる」
「そうなんだ…」
少し話し込むと、どうやらすでにそのマンションには入居済みで、もうそこから会社に通っているらしい。
営業のお仕事をしているらしく、今日はその営業先から直帰してきたところのようだった。
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