体から始まる恋。偶然出会った行きずりの男性と、恋に落ちた私 (ページ 2)

「あ、あっ……」

 思わず声がもれ、腰が浮きあがる。

 彼の指がうごめくたびに、とろけるような快感が全身に広がった。

 優しい指先が、私の感じるところを的確にとらえ、刺激する。

「そう、そこ……。そこ、もっと……ああ――」

 頭の芯がしびれ、何も考えられなくなっていく。

 自分でも気づかないうちに、私は彼にしがみつき、その耳元で哀願していた。

「お願い――。お願い、もう……!」

 ほとんど意味をなさない私の訴えに、彼はすぐに応じてくれた。

 力が入らない私の体を抱き起こし、自分の脚の上に座らせる。

 私は彼にすがりついた。

 そして昂ぶった彼のものが、下から私の中へ入ってきた。

「あ――あ、あああっ!」

 高い声がほとばしった。

 こうして抱き合う恰好は、互いの体をもっともぴったりと寄せ合うことができる。

 彼の胸に体重をあずけ、私は上下に体をゆすった。

 この恰好が、一番好き。

 こうしてふたり、同じリズムで快感を刻んでいくと、密着した肌が擦れ合い、汗に濡れて吸い付き、やがてひとつに溶け合っていくようだ。

 どこまでが自分の体で、どこからが彼なのか、区別すらつかなくなっていく。

「ああ、いい……いく、私、もう……っ!」

「いいよ。一緒にいこう」

 そしてわたしたちは、同時に快楽の頂点へのぼりつめた。

 それから、私たちは何度も何度も愛し合った。

 そうして夜が白々と明けるころ、ほかの宿泊者たちが起き出してくる前に、ホテルをチェックアウトした。

「じゃあ、また」

 タカヤはそう言って、私に手を振った。

 また、なんて、あるはずがないのに。

 互いに偽名を名乗り、連絡先すら交換していない。

 けれど私も、不思議と彼の言葉を信じる気になっていた。

「……また、ね」

 朝もやの街に消えていく彼に向かって、小さく手を振り返す。

 また、会えるだろうか。

 会いたい。

 最初に彼と出会った店に行けば、会えるだろうか。

 会える気がした。

 きっと彼も、私を待っていてくれるだろう。

 ――こんなことも、あるんだ。

 こんな……体から始まる、恋も。

「またね、タカヤ」

 今度会った時には、きっとお互い、本当の名前で呼び合えるだろう。

 心からそう思えた。

-FIN-

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