二人だけの時間が流れる海の家―思い切って重ねた唇から始まる夏の記憶
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二人だけの時間が流れる海の家―思い切って重ねた唇から始まる夏の記憶 (ページ 1)
「千星ちゃん、焼きそば三つあがったよ」
「はーい」
潮風と焼きそばの匂い。
それがわたしの、一番新しい夏の記憶。
「利人さん、パラソルのレンタル手続きしてきます」
「おう。よろしく」
遠い親戚の利人さんが経営する海の家は、ウッドデッキと二階席があるカフェ風のお店だ。
オシャレだから働いていても楽しい。
何より、利人さんの側にいられるのがうれしい。
日に焼けた肌に無精ひげという見た目なのに、すごく優しい利人さんにわたしは片想いをしている。
「今日はなんだか暇ですね」
平日の昼間とはいえ、いつもならお客さんが途切れない時間帯。
だけど、利人さんとお喋りする余裕があるくらい、お客さんがいない。
「あー。今日からあっちの水着カフェがオープンしてるからだろう」
「水着カフェ?」
「店員が全員水着のカフェ。女の子は可愛いし、男はイケメンだってさ」
「そうなんだ…」
そんなお店にうちが負けるなんて、なんだか悔しい。
「わたし、呼び込みしてくる!ちょうど、下は水着だし」
「いやいやいや。だめだって」
Tシャツと短パンを脱いで、ビキニ姿でビーチに向かおうとしたわたしを利人さんが止めた。
「そんなカッコで呼び込みとか、ナンパされるのがオチだから」
「でも…」
「大丈夫。明日になれば客足は戻るよ」
ね?と言って、利人さんはわたしの頭をポンポンと撫でる。
それだけのことなのに、胸の奥がぎゅっとなって、ほわんとした。
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