漫画家と編集者――越えてはならない一線がある、そう分かっていたのに…

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漫画家と編集者――越えてはならない一線がある、そう分かっていたのに… (ページ 1)

「失礼します、原稿頂きにあがりました…って、あれ?先生は……」

「先生ならいつもの“アレ”です」

そう言って私を見ながら天井を指差すアシスタントさん。

ここは人気実力ともにトップクラスの漫画家、その仕事場兼自宅。

私は編集者で、いつものように出来上がった原稿を受け取りに来た。

(また…ですか…)

「それであのぉ、原稿は…」

おそるおそるそう聞くと、別のアシスタントさんが無言で先生の机を指差した。

先生の担当になってわかったことは二つ。

仕事が早く、締め切りは落とさずしっかり守るということ。

もう一つは…

先生が無類の女好きだということ…

来る度に女性をとっかえひっかえ寝室に連れ込むほどの遊び人。

もちろん今日も例外ではない。

一体いつペンを走らせているのかと、未熟な私にはまだまだ謎が多かった。

私は出来上がった原稿を入念にチェックする。

女とイチャついていようが、こうしてちゃんと原稿はあげてくれる。

編集者としてこれほどありがたいことはない。

なのに私の心は晴れない。

理由は……見て見ぬフリをしている。

「ちょ…ちょっと先生に挨拶してきます!」

顔を見ずに原稿だけ持ち帰るのはどうかといういかにもらしい理由をつけながら、私は足早に二階へと上がった。

先生のいる寝室へ向かう途中、心の中で何度も繰り返す―――

―――お礼を言うだけ…邪魔をしに行くわけじゃない…と。

この感情に名前をつけるのは簡単だった。

けれどそれをしないのは私が編集者だから。

漫画家と編集者…

そこに仕事以外の気持ちはあってはならない。

そう決めていた。

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