お屋敷のキッチンで料理長と二人きりになっていた私を見つけたご主人様。その表情は不機嫌の極みで…
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お屋敷のキッチンで料理長と二人きりになっていた私を見つけたご主人様。その表情は不機嫌の極みで… (ページ 1)
「海斗様、おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」
キッチリとスーツを着こなし、眼鏡をかけた男性に、廊下で声をかける。
「ああ、さくらか。問題ない」
男性はちらりと私に目を向け、廊下を進んでいった。
海斗様。この立派なお屋敷のご主人様で、若くしてお父様の仕事を引き継いでおられる方。
私は、海斗様の専属メイド、そして…恋人だ。
すでにお屋敷の方には公認の仲みたいだけれど、公私混同しないように、人前では普段通りに振る舞うというのが2人での決め事だった。
近頃の海斗様はお仕事がとてもお忙しい様子で、最近はなかなか一緒に過ごせていない。
働きすぎて、体を壊してしまわないかと、心配になっていた。
(私にもなにかできることはないかな…)
そんな事を思いながら廊下を進んでいると、ふとある場所が視界に映った。
そこはこのお屋敷にある、豪華で広々としたキッチンだった。
(そうだ。何か手作りしたものをサプライズでプレゼントしよう。…何がいいかな)
考えてはみるものの、海斗様の好きな食べ物がよく分からない。
普段、海斗様の身の回りのお世話をしているが、食事はすべてお屋敷勤めのコックが作っていたからだ。
(海斗様の好み、聞いたらわかるかな?)
そう思いながらキッチンに足を踏み入れた。
「あの、すみません。少しいいですか?」
様子を伺いなが、遠慮気味に中にいるコックに声をかけた。
「はい。ああ、さくら様でしたか。」
コックが優しく笑いかける。
さくら様と呼ばれ、少し気恥ずかしくなってしまう。
「あ、あの、前にも言いましたが、一応メイドとして働いているので、同じ従業員として対応してくださいね。」
「メイドとはいえ、海斗様の恋人ですから。それで、何かございましたか?」
やんわりと否定され、戸惑いつつも、本来の目的を伝える。
「…なるほど。海斗様の好み、ですか。それなら、チョコレートを使って何か作ってみるのはいかがでしょう。」
「チョコレート、ですか?」
思いがけない答えに、思わず目を丸くする。
「ええ。海斗様は小さい頃から、チョコレートがお好きだと聞いております。ケーキなどはいかがでしょう。宜しければ作り方をお教えしますよ。」
「…本当ですか!?ありがとうございます!」
そうして私はコックにすぐ隣で手順を教わりながら、チョコレートケーキ作りを始めた。
数時間後―…
「できたー!」
海斗様にプレゼントするチョコレートケーキが完成した。
ワゴンに乗せて持って行くことも考えたが、海斗様を驚かせたくて、可愛くラッピングをして、手渡しすることにした。
「とても良くできていますね。海斗様も喜ばれると思います。」
「手伝って頂いて、ありがとうございました。さっそく今日の夜渡してみたいと思います。」
コックに向かって頭を下げた。
(海斗様、喜んでくれるといいな)
海斗様の笑顔を想像して、自然と笑みがこぼれ、コックと微笑み合った。
「…あ、さくら様。髪にチョコレートがついています。お取りしますので、少しお待ちください。」
「あ…混ぜてる時についちゃったのかな?…すみません、ありがとうございます。」
コックが私の髪についたチョコレートを拭っていたその時。
「おい、何をしている」
キッチンの扉から聞き慣れた声が聞こえた。
「っ!、海斗様?」
突然の訪問に思わず目を丸くする。
チョコレートを取るためとはいえ、コックが私の髪に触れているのをみて、海斗様が不機嫌そうに私の腕を引っ張った。
「海斗様。さくら様の髪についたゴミをお取りしただけですよ。」
コックがにっこりと笑って事情を説明する。
「…そうか。それで、お前はここでコックと2人で何をしていた」
明らかに不機嫌なその声に、私の肩がびくりと跳ねた。
「えっと…」
(どうしよう。サプライズで渡そうと思ってたのに…)
どうしようか迷っていると、海斗様が私の手を引いて歩き出した。
「来い」
「…海斗様っ!?」
いつになく強引な海斗様に驚きながらも、コックにもう一度お礼を告げて、キッチンを後にした。
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