公言のできぬ秘めたる逢瀬、命を懸けて愛し合う二人の物語 (ページ 4)
窓の外が朝焼けに白む頃、着物を整え直した二人は抱き合い、それぞれが趣のある大正硝子の酒器を手にしていた。
しばらくして、思い詰めた表情の博文が、その酒器を捨てるようにして下に落とした。
中に注がれた葡萄酒が脆い硝子とともに辺りに飛び散る。
「博文様?」
「やはり駄目だ…」
「え?」
「僕は…貴女の涙よりも…愛らしい笑顔をこの先もずっと側で見ていたい」
「博文様…」
「行こう……紫乃」
「っ…ぅ、はい…」
欠けた硝子の間からは、永遠を誓う毒が鈍い光を放ちながら流れ、蔵の床に染み込んでいった。
どこまで逃げ切れるかわからない。
二人はとにかく走り続けた。
「たとえ地獄に落ちようとも…あなたと一緒なら私は…どんな苦行にも耐えましょう」
「僕もだ、燃え盛る炎に焼き尽くされようとも…あなたを決してこの手から離さず愛し続ける」
この先に何が待ち受けていようとも、当ての無い旅へと向かう二人の顔は幸福に満ちていた。
東の遠方から広がる…
美しい朝の青く輝く光の束を浴びて…
これは激動の時代に生きた者達の
狂おしくも儚く切ない愛の物語―――
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