初めてのコスプレでどきどきエッチ!? 彼が衣装に着替えたら (ページ 2)
左手を腰にあて、右手は前へ。顎をあげて、すべてのものを見下すように。
「選べ。俺か、死か」
――え……、え、うそ……えええっ!?
冷たい、突き放すような口調――ただの棒読みという言い方もあるが――に、背中のあたりがぞくっとふるえた。
胸の奥からなにやら言いようのない感覚があふれてくる。心臓をきゅっと絞られるみたいで、嬉しいような、ちょっと気恥しいような。
――もしかして、これが、「萌え」ってヤツ? 胸キュンってヤツですか!?
乙女ゲームにハマる女性たちは、みんなこんな感じなのだろうか。
いや、目の前にいるのは、現実の彼氏だ。二年も一緒に暮らして、お互い、ウラもオモテも知り尽くしている相手。
なのに。
普段と違う服装をしただけ、ちょっとポーズをとっただけで、まるで知らない男性、本当に架空の世界から抜け出してきた男性のようだ。
――なに、これ。なにこれ、なんなのーっ!?
なんだか良くわからないけれど、とにかく、めちゃくちゃカッコいい。
「もういいか。脱ぐぞ」
「あ、待って! 待って、まだ脱がないで!」
千沙はあわててスマホをタップした。
「ほら! ほら、見て、これ!」
決め台詞の「俺か、死か」への選択肢で、
「はい、あなたにすべてを捧げます」
を選ぶと、相思相愛、ラブラブエンディング。
「いいえ、死んでもあなたには従いません」
を選ぶと、
「たとえ魂は得られなくとも、せめてその身だけでも、俺に縛り付けてやる」
と、拉致監禁、バッドエンディングになるらしい。
しかも一定金額課金すれば、それぞれのエンディングにエピソードが追加され、男性キャラと女性主人公の濃厚なラブシーンのイラストが見られるというシステムのようだ。
「ね……」
スマホをテーブルに置き、千沙はゲームキャラの名前を呼んだ。
「は?」
「だからぁ」
彼に身を寄せ、顔を近づける。キスをねだる時のように。
「あなたに、すべてを、捧げます」
「捧げるって、お前……」
最初は戸惑っていた智司も、次第にノッてきたようだ。もう、衣裳を脱ぐとは言わなかった。
千沙の顎をくいっと持ち上げ、唇を重ねる。
軽くついばむようなキスのあと、
「セリフ。次のセリフ、どんなんだ?」
「わかんない。なんか、それっぽいこと、言ってよ」
「それっぽいって――んー、じゃあ……」
にやっと笑った。
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