その手が、唇が、官能を掻き立てるから。理性をなくした路地裏での話 (ページ 4)
心地よい風が頬を撫でていく。
朱理が建物の角を曲がると、少し先の薄暗い路地の先に、貴史が煙草を燻らせながら、軽く足を組んで佇んでいた。
朱理を視線の端にとらえると、ゆっくりと煙草を消す。
そして、朱理がすぐそばまで来ると、貴史は彼女を背後から抱えるように包み込み、その髪に顔を寄せた。
ふわり、とその柔らかな髪から、優しい香りが鼻腔にひろがる。
貴史は無言で朱理を自分の方へ向けると、今度はその唇に軽く噛み付き、それからゆっくりと口づけた。
朱理の舌が、待ち構えていたように、貴史の口の中を激しく貪り、そして吸い付く。
「やべ・・気持ちよすぎ」
そう言うと貴史が朱理の肩を押し、おもむろに自分から離す。
朱理が、んっ・・、と声を漏らし、濡れた瞳で彼を見上げる。
貴史はそれを捕縛するように見つめ返し、そして問いかけた。
「名前」
「・・朱理」
朱理が掠れるような声で応える。
「いい名前だ、お前に似合ってる」
貴史はそういうと、つぃっと朱理のその紅い唇をその指でなぞった。
朱理は目を閉じて、切なそうに震え、嘆息した。
その指先を全身で堪能するように。
コメント (0)