その手が、唇が、官能を掻き立てるから。理性をなくした路地裏での話 (ページ 3)
視線を感じ、ふと貴史は視線をあげた。
緩やかにウェーブした豊かな亜麻色の髪をたたえた、1人の綺麗なオンナが彼を凝視していた。
いや、正確には、彼の手元を凝視していた。
(まるでとって喰われそうだ)
貴史は心の中でくすっと笑った。
いままでも、女性にその手を褒められることはよくあった。多分、そこにはなにか、女性を惹きつける特別な魅力があるのだろう。
持ち主であり、かつ男性である彼にはいまだよくはわからなかったが。
しかし、彼女のそれは、度を越していた。
口元に運びかけたアイスコーヒーのストローにその紅い唇をつける途中で、彼女は固まっていた。
貴史はその口元に視線をはしらせた。
ふっくらとしたその紅い唇は、うるんとしてつやつやと輝き、思わず良からぬことを想像するには充分なくらい官能的で、貴史の中の欲情を激しく刺激した。
そんな昂りは、久しぶりだった。
貴史はコーヒーを飲み干すと、手持ちの書類の端をやぶり、さらさらっとなにかを書き付けた。
そして、スッと静かにたちあがると、ゆっくりと、そう殊更ゆっくりと、彼女の横を通り過ぎた。
彼女は追いかけてくるはずだ。彼のメモを見て。
(コレは必然だ)
貴史はそう直感した。
貴史がこの店に来たのは、初めてではないが、いつものことでもない。普段はこんなに早い時間には立ち寄らないのだ。
ここで、彼女をみたことは、いままで一度もない。
それでもこれは、偶然ではなく、必然な気がした。
(さて・・・)
入り口をでて、左に曲がり、建物の壁に寄りかかると、貴史はタバコに火をつけた。
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