猫の憩いの場所に現れた不思議な青年に、愛を囁かれながらベンチの上で抱かれて
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猫の憩いの場所に現れた不思議な青年に、愛を囁かれながらベンチの上で抱かれて (ページ 1)
「あなた誰?」
「あぁ、驚かせてすまない。僕の名前はケビンだ。……知ってる?」
膝の上に乗った猫が気持ちよさそうに眠っている。
私はその背中を撫でながら、ベンチで横に座った青年の言葉に首を傾げた。
彼の薄茶色の髪や、うっすらと青みを帯びた黒い瞳を見たことはないが、その名前には聞き覚えがある。
「ケビンって二軒隣の猫の名前だけど、……え?近くに住んでるの?」
広い公園の雑木林の中にあるこの場所は猫たちの憩いの場で、近くの家々で飼われているか、近所の人が面倒を見ている地域猫が集まる場所だった。
いつからかベンチも置かれるようになって、仕事が休みの日にここへ来るようになってもう三年以上になるだろう。
だがケビンと名乗った青年のことは知らなかった。
私の問いに、彼はにこっと笑い、あごを引く。
「もちろんだよ。すぐ近くに住んでるから、青子のことも知ってるよ」
「……私?」
「そう」
笑い、ケビンは手を伸ばし、私の膝の上で眠っている猫の頭をそっと撫でた。
その手つきや優しげな眼差しで猫好きなのだとわかって、私は少しほっとしながらベンチの背もたれに寄り掛かる。
「最近、虐待目的で猫を連れて行く人もいるから、ちょっと心配で。いきなりあなた誰なんて聞いてごめんなさい。猫、好きなの?」
「うん、……すごい好きだけどそれ以上に」
「ん?」
「青子が好き」
「……え?」
「具合が悪かったら病院へ連れて行ってくれて、台風の日はアパートにこっそりと連れて行ってくれて、いつも僕たちを大切にしてくれる。ここに来る猫はみんな、青子のことが大好きだよ」
「……――」
前言を撤回すべきか悩みながら、私はちょっと怖くなってケビンから身を離した。
しかし膝の上で猫が寝ているのであまり動けない。
訝しげな視線を向けてしまったらしく、彼はまたにこっと笑った。
「冗談だよ。でもここの猫ならそう言うと思う……、青子、君のことが大好きだって」
「……あ、ありがとう?」
「どういたしまして」
答えたケビンの手がごく自然に私の手首を掴み、持ち上げた。
指先へ顔をすり寄せたかと思うとちゅっと音を立ててキスし、私の顔を見つめながら不思議な色の目をゆっくりと細める。
整った顔も相まって現実離れした光景に見入っていると、膝の上で寝ていた猫が目を覚まして欠伸を零し、すとんっと地面に降りた。
「青子」
ひどく愛おしそうな声で名を呼び、ケビンは私の手を自分の頬に当てた。
「僕は本当に君が好きだよ。猫を可愛がるこの手も、猫を見つめて笑う君の笑顔も、優しく名を呼ぶ声も、……ぜんぶぜんぶ、好きだ」
「!」
はっと我に返った時、いつの間にかベンチに押し倒され、真上からケビンが覗き込んでいた。
驚きながら咄嗟に腕を突っ張るが、彼はその指先や手の平にもキスして、君が好きなんだ、と一途な声で囁いた。
「……待って、待って、私はあなたを、知らない、し、ここ、外――」
「大丈夫だ、猫たちが見張ってる。だから誰も来ない」
ちゅっとまた指先にキスして、ケビンは見惚れるほどに端正な顔でにこっと笑う。
その笑顔が先ほどよりもずっと魅力的に見えて、私はうろたえながら周囲を見回した。
茂った木々の向こうでは子供たちが遊んでいるはずだ。
だが先ほどまで確かに聞こえていた声は消えていた。
「ひぅ!」
驚いた私に、ケビンは猫たちを信頼してと囁き、いきなりべろっと頬を舐めた。
思わずおかしな悲鳴を上げると、彼は目を細めて楽しげに笑いながら、君を食べちゃうぞ、と耳元で囁いた。
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